大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)780号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人らの上告理由一について。

原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人坂本政利の過失によつて本件事故が発生した旨の原判決の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。したがつて、論旨は採用することができない。

同二について。

原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人坂本和子に運行供用者としての責任がある旨の原判決の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。したがつて、論旨は採用することができない。

同三について。

原判決に所論の違法は認められない。したがつて、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官岩田誠の反対意見があるほか裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

裁判官岩田誠の反対意見は、次のとおりである。

職権によつて案ずるに、原判決は、金田一人が本件事故によつて被つた損害は、傷害の治療費等として金一六万六六六七円、得べかりし利益の喪失として金五〇万円、慰藉料として金一〇〇万円の合計一六六万六六六七円であるところ、同人はすでに自動車損害賠償保障法による保険金三〇万円を受領しているので、これを控除した残額およびその所定の遅延損害金が、同人が上告人らに対して請求することのできる権利であると判示したうえ、同人が本件第二審係属中である昭和四四年六月一二日死亡したので、被上告人らが右権利を法定相続分に応じて相続した旨判示し、被上告人らの本訴請求を右の限度で認容しているのである。

〈参 考〉 熊本地裁昭和四四年五月六日判決

しかしながら、慰藉料請求権は、一身専属的なものであつて、その個人的・主観的色彩の減退のため、通常の金銭債権と同視しうべきものに転化した場合をのぞき、相続性を有しないものと解すべきところ、本件においては、一人の本件事故に基づく慰藉料請求権は、同人の死亡当時いまだ通常の金銭債権と同視しうべきものに転化していたといえないことは明らかである。したがつて、原判決はこの点について法令の解釈を誤つたもので、破棄を免かれないと考える。その理由の詳細は、当裁判所昭和三八年(オ)第一四〇八号同四二年一一月一日大法廷判決、民集二一巻九号二二四九頁において私の同調した裁判官松田二郎の反対意見と同一であるから、それをここに引用する。

(裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例